neverjpのぶらり日記

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メタバース

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メタバース関連 名簿(読売新聞)


メタバース
インターネット上に作られた3次元的な仮想空間で、VRゴーグルなどを装着すれば自分が空間内に存在しているように感じ、他者と交流できる。英語で「超越した」と言う意味のメタと、「宇宙」や「世界」を意味するユニバースを合わせた造語。米国ニール・スティーヴンス氏が1992年に発表したSF小説スノウ・クラッシュ」が由来とされている。

 

仮想空間 拡張する「私」

メタバース 痛みも再現

まるでその場にいるかのようなインターネット上の巨大な仮想空間「メタバース」が急速に拡大し、現実世界と並ぶ存在になりつつある。人間のあらゆる活動や医療などの情報がデジタル化され、蓄積されている。第4部ではデジタル技術の進化が社会のあり方だけではなく、人間の価値や尊厳さえも激変させるパワーを持ち始めた時代の変化を追う。

理系集会

 VR (バーチャルリアリティー=仮想現実)ゴーグルをつけると、いきなり会議室に放り込まれた。女の子の姿をした登壇者がパネルを前に高度な数学の概念を説明している。左右を見渡すと参加者が熱心に耳を傾けている。公演後には個別に集まって会話を楽しむ声も耳に入ってきた。11月中旬に開かれた「理系集会」が異色なのは、会場がメタバースと言う点だ。

 参加者は各地から思い思いの格好をしたアバター(分身)で「会場入り」する。主催したのは都内の政策研究機関に勤めるKurolyさん(25)。「コロナ禍で研究者間の交流が減ったのをなんとかしたかった」と語る。中国・大連から参加しているという男性は「実際に会っている感覚で、時間を忘れて話し込んでしまう」と魅力を話す。

相次ぎ参入

 活動範囲が無限大に広がるメタバースには、巨大IT企業も重心を移している。10月に社名を「メタ」に改称した旧フェイスブックマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は、オンラインイベントでメタバース人口が「今後10年以内に10億人に達することを期待している」と語った。

 人が集まれば経済活動も活発になる。調査会社エマージェン・リサーチは、VR機器やゲームなどを含むメタバース市場が2028年には約8300億ドル(約94兆円)と、20年から17倍以上に成長すると見込む。米マイクロソフトやディズニーなど大手各社もメタバースへの参入を相次いで公表した。

国内でも関心が高まっている。メタバースに関連したサービスを提供している新興企業クラスター(東京都)は11月、東京大や京都大と協力して、「メタバース研究所」を設立することを発表した。同社の加藤直人(Naoto Kato)社長(32 )は「1日の多くをメタバース内で過ごす人もいる。生活の場としてのメタバースの可能性を探りたい」と狙いを語る。

 協力する稲見昌彦(Masahiko Inami)・東大教授(人間拡張工学)は、「メタバースでは物理的な制約を超えていることができ、脳や体の機能を拡張することにつながる」と期待する。

自意識分裂も

 メタバースではVRゴーグルを装着し、視覚と聴覚によって自分が仮想空間に没入した感覚を得られる。これに触覚が加われば、没入感はさらに増すだろう。

 新興企業「H2L」(東京都)は、アバターの腕に与えられた刺激が、実際に自分の腕に伝わる装置を開発した。腕に巻いた装置から出る電気信号で、仮想の物体の重さや、鳥につつかれたときの痛みを感じられると言う。逆に手を動かすとアバターの手も動き、一体感が増す仕組みだ。

 南沢孝太(Kota Minamisawa)・ 慶応大教授(身体情報学)らは、体を動かしたり、ものが触れたりしたときの感覚を再現する「触覚スーツ」を研究中だ。スーツには、体の動きを振動で伝える多数の装置が取り付けられ、メタバースで自分のアバターが感じた触覚を、現実の自分が感じることも可能になる。

 ただ、メタバースでは多様な人生を楽しめる一方で、長時間過ごすことで自意識の分裂につながる危険性も指摘される。久木田水生(Minao Kukita)・名古屋大准教授(技術倫理、哲学)は「子供や若者の心身の発達に悪影響が及ぶ危険性もある」と話す。人類は過去に例のない未知の領域に入りつつある。

脳とつなぐ 生き残る意識

 人間がメタバースで深い没入感を得られるのは、脳が錯覚しているためだ。では、いっそのこと脳とコンピューターを直接接続してやれば、仮想と現実がより融合するのではないか。SFのような技術開発が実際に世界で進んでいる。

脳波で操作

 東京都目黒区の牛場潤一(Junichi Ushiba)・慶応大准教授(神経科学)の研究拠点。コンピューター画面に映し出された米Googleの立体的な地図サービス「ストリートビュー」の表示が前進したり、左右を向いたりしている。実は、その前に座る学生が脳波で操作しているのだ。

 脳波の特徴を事前学習させた人工知能(AI)で、人の意図を読み取る技術の研究に取り組む牛場氏は「脳の障害で体が不自由な人でも、脳波で動く電動車椅子を使えば、自由に街を散歩できる」と話す。

スタンフォード大は今年5月、手足が麻痺した男性の脳に埋め込んだ電極から神経活動を読み取り、1分間にアルファベット9 0字の入力を実現したと発表した。男性に手で文字を書くことを想像してもらい、その時の手の動きに関わる脳の部位の活動をAIで解析したという。

国の研究プロジェクトとして、テレパシーの実現を目指しているのは新興企業新谷代表取締役を務める金井良太(Ryota Kanai)氏らだ。脳内に埋め込んだ電極で計測した脳波をAIで解析し、思っていることをデジタル情報に変換。この情報を離れた場所にいる相手の脳に電気信号の形での送り込む−との構想だ。金井氏は「実現すれば、あらゆる人の脳と脳が直接つながり、瞬時に思いを伝えられる」と話す。

電気刺激

 脳を電気刺激して、思い通りに人の気分を変えることも一部実現している。米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)が資金を提供した米カリフォルニア大サンフランシスコ校の研究では、中等度~重度のうつ病患者の脳部位を電極で刺激すると、気分が大きく改善したという。

脳の刺激部位によっては、恐怖やめまいを引き起こしたり、性的興奮を感じさせたりもできる。米起業家のイーロン・マスク氏が設立した新興企業ニューラリンクは、脳とAIを接続することを目指し、脳内に埋め込む装置の開発を進める。

一体化

 そもそも脳は、数百億個の神経細胞が複雑に絡み合い、電気信号のやり取りで情報を処理する一種のコンピューターだ。脳とコンピューターは相性が良いとも言える。我々が現実世界と感じている空間も実は脳が作り出したもので、神谷之康(Yukiyasu Kamitani)・京都大教授(脳情報学) は、メタバースならぬ「ニューロバース」と呼ぶ。他人のニューロバースにアバターで遊びに行く−などと言うことも実現するかもしれない。

 さらに、「脳と機械を接続し、人間の意識を機械にアップロード(移植)することも20年以内に可能だ」と、渡辺正峰(Masataka Watanabe)・東京大准教授(脳神経科学)は予測する。その先にあるのは「不老不死」の世界だ。肉体がなくなっても機械に宿る意識は残る。この意識を仮想空間につなげば、仮想空間で生き続けられる。

渡辺氏はこの構想を実現するため、2018年にベンチャーを設立した。「不老不死は人間が等しく持つ願望だ。私も死にたくない」。脳と機械が一体化になる時代が近づいている。

匿名世界 中傷被害も

 メタバースでは空間を超えて集まり、同じ経験を共有できる。目的に応じてアバターの外見も変え、複数の人生を味わうことも醍醐味の一つだ。ただ、アバター主体の仮想世界のルールは確立されておらず、法的、倫理的問題につながる恐れも指摘されている。

メタバースでは、ゲームの技を競い合う世界、自作の絵や音楽などの作品を発表する世界など、様々な種類の世界が併存する。個人にとって活躍できる場の選択肢が増え、なければ新たに世界を作ることもできる。

 井上智雄(Tomoo Inoue)・筑波大教授(人間情報学)は「現在でも多くの人は、様々なSNSのサービスを利用し、複数のアカウントを上手に使い分けている。メタバースでも、より居心地の良い場所を取捨選択できるはずだ」と見る。

 ただ久木田水生(Minao Kukita)・名古屋大准教授(技術倫理・哲学)は「仮想空間の比重が高くなるにつれ、新たな問題が生じるだろう」と予測する。アバターは顔も体もデジタル技術によるいわば「作り物」で、メタバース内では匿名で活動することも多い。個人で複数のアバターを操作することも一般的だ。顔や姿で「一人の個人」を特定した現実社会とは全く異なる人間関係が出現する。

 メタバースで受けたハラスメント、中傷などの責任をどう追求すれば良いか。仮想空間が経済活動の主要舞台になれば、金銭上の損害につながることも想定される。久木田氏は「誰もが自由に活動できるよう『匿名』は認められても良いが、トラブルが起きたときのためにアバターを個人と紐付ける仕組みは確保しておくべきだ。アバターを法的に保護するルールも考えなくてはならない」と指摘する。

 一方、脳が機械と接続していくことにも懸念の声がある。脳に第三者が侵入し、操作されたり、思考を読み取られたりすることについて、信原幸弘(Yukihiro Nobuhara)・東京大名誉教授(心の哲学)は「人間は自分の規範に従って自由に生きる自律的な存在だ。脳に他人の考えが組み込まれれば、重大な個人の尊厳への冒涜になる」と話す。

 新技術は常に人間の生活を変えてきたが、人間の存在自体に変容を迫る技術は過去になかったと言う。信原氏は「社会学者、倫理学者だけでなく科学者も加えて、未来を考えていくべきだ」と強調した。

思考もそっくり

 仮想空間では肉体が必要ない。高度な知能を持ったAIがメールのやり取りなど人間並みの仕事を行うことも可能になる。

 新興企業「オルツ」(東京都)は、個人の思考パターンや価値観をAIに学ばせた「デジタルクローン」の実現を目指す。ツイッターなどへの日々の投稿や音声、写真などのデジタルデータをAIに入力。約1000人分のデータから作った(平均像)と比較し、「個性」を見極めていくという。

 ある時、同社の社員が社長のデジタルクローンに会社の移転先について尋ねると、「お台場かサンフランシスコと回答した。後で本人に聞くと同じ返事だったという。米倉豪志(Goshi Yonekura)副社長(46)は「思考を読んでAIが判断した結果だろう」と笑う。

 「完璧なデジタルクローンができれば本人そのものになる。本人は死んでもデジタルクローンが生き続ける日が来るかもしれない」

 

読売新聞一面と七面を転載(読売新聞2021年12月6日付朝刊)

編集委員・安田幸一、科学部 稲村雄輝、大山博之

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